福岡高等裁判所 昭和31年(う)840号・昭31年(う)841号・昭31年(う)837号・昭31年(う)838号・昭31年(う)836号・昭31年(う)839号 判決
論旨は要するに押収にかゝる機帆船第二豊漁丸は原判示第一の一、第二の犯罪行為の用に供した船舶で、長崎遠洋漁業株式会社の所有船であるが被告人山中利三郎等が借り受け、被告人梁仁豪を除く爾余の被告人等が占有していたものである。しかるに原審は右会社の監査役豊崎初次郎等は右船舶を賃貸するに当り、被告人山中等の人物、経歴、密輸出の情を知らなかつたし、右情を知らなかつたことにつき、右豊崎初次郎等に何等過失の責むべきものがなかつたとして、右船舶は没収しないとの判決をした。しかしながら旧関税法第八十三条の所謂占有没収の規定は刑法十九条の特別規定であり、同条第一項は第二項の規定からしても善意悪意を区別しない法意と解すべきである。従つて所有者の意思に基かない不法占有の場合は格別、契約その他正当な権限に基き占有する船舶であつて、関税法所定の違反行為に供された以上、その善意悪意にかゝわりなく当然その所有権を剥奪する趣旨と解すべきであり、昭和二十五年十月二日東京高等裁判所第十三刑事部が言渡した判決(高等裁判所刑事判決特報第十四号五頁)もこれと同一趣旨に出でたものである。しかも被告人山中利三郎等が右第二豊漁丸の占有を開始したのは傭船契約に基くものであり引続き正当権限に基き占有していたことは原判決もこれを認むるところである。又大蔵事務官溝部孝成の豊崎初次郎に対する質問調書及び右豊崎の検察官に対する供述調書を綜合すれば、右豊崎において借主の選任監督につき過失がなかつたとは言い難い。要するに旧関税法第八十三条第一項の法意は同法所定の犯行に供した船舶は所有者の意思如何に拘らず、不法原因に基く占有でない限りこれを没収すると言うのであつて、本件に対し原判決が没収の言渡をしなかつたのは法令の解釈を誤り、その誤りが判決に影響を及ぼすと謂うのである。そこで、この点につき考えるに、所論の如く旧関税法第八十三条第一項には犯罪行為の用に供した船舶で犯人の所有又は占有に係るものは之を没収すと規定し、その所有又は占有が善意なると悪意なるとを何等区別してはいないが、それだからといつて、論旨の如くその所有又は占有が善意無過失の場合においても単にそれを犯罪行為の用に供した故を以て没収し得る法意なりと断定することはできない。本件の場合において論旨の如く解するならば、所有者の意思に基かない不法占有の場合を除外する理論的根拠を見出し得ないのみならず、憲法第二十九条との関係においても疑問が生ずる。従つて旧関税法第八十三条第一項は、その所有につき善意悪意の区別は明かにしていないが、善意無過失の場合はこれを除外する法意だと解するのが相当であり、このことは同法の改正規定たる現行関税法第百十八条の規定に照らしても窺い得るものと解する。そこで記録を精査するも、本件船舶を被告人山中利三郎に貸与した豊崎初次郎に故意があつたと認むる証拠は存在しないが、少くとも右貸与につき過失のあつたことはこれを認むることができる。即ち大蔵事務官溝部孝成の豊崎初次郎に対する質問調書、右豊崎の検察官に対する供述調書によれば、同人は本件船舶を被告人山中利三郎に使途は鮮魚運搬用、期間二ケ月、賃料月十三万円の約束で賃貸したものであるが、知人佐々木幸一の仲介があつたにせよ、被告人山中等の人物、経歴の調査は勿論のこと、第二豊漁丸の航行区域の範囲若くは制限につき何等の取極めもなく、且つ被告人山中に一度も面会すらしていない事実を認むることができるが、これを以て原審の如く右豊崎に本件船舶の賃貸につき何等過失の認むべきものがなかつたと断定するのはいささか早計であると謂わなければならない。なんとなれば、密輸出入の跡を絶たない現状においては、本件の如き船舶の賃貸借契約をなすに当つては、賃借人の人物、経歴、船舶の使用目的、その範囲等につき、契約の本旨に従つて使用されるものであるか否かの点につき一応の調査義務があるものと解するのが相当である。若し原審の如く解するにおいては、刑法第十九条の外に旧関税法第八十三条の没収規定を設けた立法の趣旨は滅却せられるの結果となるからである。従つて豊崎初次郎の本件船舶を被告人山中に賃貸するに当つては前認定の如く調査義務を履行しなかつたことにつき過失があつたものと認められるので、原判決は、結局法令の適用を誤つた違法があり、この点において破棄を免れず、結局論旨は理由がある。
そこで本件船舶は何人が占有していたかにつき判断するに、被告人梁仁豪については検察官は同人に対しても控訴を提起しながらその控訴趣意では同人には占有がないと認めているところであり、被告人前田三三、同川崎百四郎、同浜田邦治はいずれも第二豊漁丸の乗組員であつて航海における船舶に関する一切の権限は船長に存するものと解するが故に右被告人三名については本件船舶を占有していたとは認められず、結局借主たる被告人山中利三郎、船長たる被告人宮下励が占有していたものと認むるのが相当である。
よつて被告人前田三三、同川崎百四郎、同浜田邦治、同梁仁豪に対する本件控訴、被告人梁仁豪の本件控訴はいずれも刑事訴訟法第三百九十六条(被告人梁仁豪に対しては刑事訴訟法第百八十一条第一項本文適用)によりこれを棄却することとし、被告人宮下励、同山中利三郎に関する部分の原判決は刑事訴訟法第三百九十七条によりこれを破棄し、同法第四百条但書に基き当裁判所において直ちに判決をする。
(イ) 罪となる事実及び証拠
原判示第一の(一)中、山中利三郎が情を知らない豊崎初次郎から借受けた機帆船云々中「情を知らない」との点を除き原判決摘示の事実及証拠のとおり。
(ロ) 適用法令
旧関税法第八十三条第一項刑事訴訟法第百八十一条第一項本文を加える外原判決のとおり。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 柳田躬則 裁判官 青木亮忠 裁判官 尾崎力男)